ナーンのきざ男

   古都ナーンはアクセスが難しい。ナーン河平野と言っても、山に囲まれた盆地である。

 この河を下ってピサヌロークへ出る船の道はとだえて久しく、プレーからの山越えの道は長い。飛行機の便は今はない。北の連峰を越えて、ラオスのルアンプラバーンへ出る峠の国境は閉ざされている。

 それでも、3年に一度は、この山都に旅するのは、ここにたっぷりと溜まった歴代の美術の宝を観るためである。

 写真は 古都の中心に立つワット・プーミン寺の壁画。19世紀建立の寺院はタイの500バーツ札のモチ−フに選ばれたこともある。

 左手を女の肩に置き、右手を耳にあて、言い寄る男はきざである。白い肌に総身の刺青が鮮やか。上半身は朱色のメダイヨン。下半身は黒の刺し子模様が彫ってある。

 護身用に刺青を彫る風習は、ビルマのシャン族のものである。18世紀以降、北部タイはビルマの支配下にあった。

 長髪をまげにまとめ、ターバン布で束ねた端を後部で跳ね返している。油で練った口ひげの先もピンとはねている。

 眼も鼻も口も好色に輝かせている男は、ビルマからの材木商人であろうか。耳には大きな穴が開いているが、タバコも花も刺していないのは、次なる展開への準備であろうか。

 何よという眼つきできざ男を見やる女性は、きちんと上着をまとっている。タイ・ルー族の金持ちの後家さんであろうか。肩に男の手をとまらせている親密さは、これまでの関係を表しているようにも見える。

     19世紀に山の幸、森の幸の集荷地として栄えたナーンには、昔のきざ男、仇な女の物語の色香が残っている。

                                                                                      レヌカー・M




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